地震保険の補償に上乗せできる 火災保険の特約
生保損保業界ウオッチ(損害保険)
地震保険は、火災保険金額の50%が保険金額の上限となります。例えば火災保険金額3000万円の住宅が地震で全損した場合、受け取れる地震保険金は1500万円。よって地震保険金だけで住宅を再建するのは困難です。
地震保険は官民で運営
地震はいつ、どこで、どんな規模で起きるかが分かりません。そのため、支払うことになる保険金がどれだけになるかの予測も難しいのです。ゆえに地震保険は損保会社単体での運営が困難で、法律に基づき政府が関与、官民で保険金支払い責任を負う制度として成立しています。
一契約当たりの保険金額に上限が設けられているのは、官民の保険金支払い責任が過大になることを抑え、大震災下でも保険金を確実に支払うための工夫なのです。
他方、一部の損保会社は、地震保険に上乗せして火災保険金額の最大100%までの地震補償を受けられる特約を提供しています。
東京海上日動火災保険の「地震危険等上乗せ補償特約」、損害保険ジャパンの「地震危険等上乗せ特約」は、地震保険金と同額の保険金が受け取れる火災保険の特約です。いずれも火災保険金額の50%の地震保険を付帯すると加入できます。
損害調査は、地震保険と特約分が一括で行われ、地震保険の損害区分「全損・大半損・小半損・一部損」と同じ4つの区分で判定されます。住宅全損時に受け取れる保険金は火災保険金額と同額で、住宅の再建も可能です。3000万円の住宅であれば、地震保険から1500万円、特約から1500万円で合計3000万円が受け取れます。
大半損時は地震保険金額の60%、小半損時は30%、一部損では5%と、それぞれ定額の保険金が支払われます(下表参照)。
特約保険料は地震保険料の2倍程度の水準です。地震保険は非営利の制度ですが、特約は損保会社の営利商品。損保会社が単体で地震リスクを負うため、保険料が高くなるのも無理からぬことです。
これら2つの上乗せ特約は、いずれも補償が充実した上位プランでの付帯が可能です。特約を含めた保険料の総額は、やや高めになります。
一方、ソニー損害保険の「地震上乗せ特約」は、保険料を抑えたい時の選択肢になります。深刻な全半損の損害を受けた場合に備える補償に絞り、比較的小さな損害である一部損の補償をカットしています。その分、保険料を低くした商品性は合理的と言えます。
いずれの特約も保険期間は1年のみで長期契約は不可。地震保険料控除が利用できます。
特約や補償範囲などが商品によって異なる保険の比較はなかなか大変。この連載では保険に詳しいファイナンシャルプランナーが商品選びの勘どころを紹介します。
学生時代から生損保代理店業務に携わり、2001年、独立系FPとしてフリーランスに転身。翌年、生活設計塾クルー取締役に就任。『地震保険はこうして決めなさい』(ダイヤモンド社)など著書多数。財務省「地震保険制度等研究会」委員。社会福祉士。
[日経マネー2023年8月号の記事を再構成]
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP(2023/6/21)
価格 : 850円(税込み)
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